2018-04-24

クリエイティブ・ディレクションのポイント 2/2

クリエイティブディレクションと一言で言っても、弊社のようなブランドデザインの場合もあれば、広告制作、映像制作、事業開発、店舗開発、商品開発、あるいは映画製作、ファッションブランドのクリエイティブディレクター、はたまた社内プロジェクトの場合もあり(ワークスペースを改善する、新たな制度を導入する等)同じ言葉を使えど実務は異なります。本稿では汎用的に運用できる視点を試みたいと思います。つまり対象となるプロジェクトやテーマに限定されずに現場で生かす事のできる、抽象度です。それならばクリエイティブディレクターの肩書きを持つ必要もなく、チームのリーダーやチームメンバー、リーダーを支える誰かであってもOKでしょう。ここで以下にクリエイティブディレクションを集約定義しておきましょう。

「対象となる物事の最善を実現するための全ての行動」

ここから集約した一言に含めている要件毎に展開します(やや長文注意)。

0. そもそもの対象(テーマ)に対する検証

例えば..

→「企業の宣伝広告を展開したい」という対象(テーマ)があったとき、これはなぜ設定されたのか(調査)。
→その理由が「事業の閉塞感を打開したいから」だとしたら、一体何を持って「閉塞感」としているのか(疑義)。
→閉塞感を感じる要因は実は経営とは別の場所に隠れているのではないか(仮説)。
→仮にこの問題意識が妥当であったとして、事業の閉塞感を打開する方法ならばもっと本質的で効果の高いやり方があるのではないか(拡散)。

そうした“そもそも”に対するいくつか検証や思考実験を実施することは対象(テーマ)の上方に位置する階層の視点獲得となり、選択肢や可動性の領域が格段に向上します(高い場所から見渡した方が全体像が掴めます)。このことは対象(テーマ)に実際に取り組む場合、アイデアや着想、企画のフレームをメタ化・構造化しますから、その後の設計の重大で特別なエッセンスとなります。さらには対象(テーマ)の設定自体にフィードバックすることは、望ましくないプロジェクトのままを起動させないことに寄与します。戦略的でないのなら止めた方が良いのです。「(戦略的に)変える・止める・終わる」という視点や選択肢を保持することはとてもパワフルで、物事をクリアに見せてくれます。逆を言えばテーマに対し素朴でクリティカルな検証を挟まずにそこで思考停止すれば「否が応でもやらなければならないこと」のフレームに閉じ込められたまま、戦略は切れ味や驚きに乏しいものとなります。

1. 診断、現状評価

シンプルな理で、無理なことはうまく行きません。先入観を極力排し、取り巻く状況や環境、動員できるリソース、制約条件や利害関係、タイミング、コンディション、性質・性格、体質、文化、支配的な世界観、各種規定、想定されるリスク等を精緻にリサーチ、分析し理解する必要があります。複数の評価者や評価軸を組み合わせ、現実的に科学的に現在の状況を診断し評価します。ここでの評価は設計や運用に大きく影響しますから、対象との距離を保ちながらやや冷徹な態度でいることがちょうど良いのではないかと思います(リアリティは身も蓋もないものですから)。対象に同調し過ぎれば外側からの視点が失われリーダーシップは機能しません。正確な診断・評価は現在地を明らかにし、その後に導く最善までとの間に広がるギャップを過不足無く測定するに役立ちます。ここでのポイントは「私の立場」や「私の居場所」を守りたい意識から一旦開放されて「観る」ことです。結果的に私が介在しようがしまいが確率が高いと信じられる評価を下します。自らと利害関係のない事象なら(他所の組織の失態や不祥事、成功事例等)クリティカルな捉え方ができることと同様です。

2. では物事の最善とは何か

物事の最善を定義する設計はディレクターの力量に大きく左右されます。より社会的、公益的であり、利害関係者の最大幸福が達成できる、あるいは、現状よりも改善されることにつながるコンセプトが定義の基盤とされていることが不可欠です。KPIやKGIも事業活動には外せない指標ですが、これそのものを追求する姿勢はもはや時代感覚を疑われます。KPIやKGIだけに突進する事業は総じてシェアを喰らい合うコモディティビジネスで、これが5年後に存在しているかは怪しいものです。「社会、世界をより良く、より美しくすること、それに繋がること」これを物事の最善に据えながら制約条件を味方につけるアプローチで利害関係者の最大幸福を実現し、結果的にKGIを達成したとき、ブレークスルーとなる景色が出現します。できるできない・やるやらないの議論から一度離れて最善や最高の状態を定義してみましょう。その後で重要:優先と相談しながら実現可能なプランニングにチューニングします。また、最善と最高との各々のアプローチは時に相反することがあります。これはデザイン(最善)とアート(最高)の関係に置き換えることもできます。チューニングとはアートからデザインへと向かうグラデーションを辿り変容していくイメージが適当かもしれません。

3. 特定した最善を実現するために必要と成る要素は何か

最善をデザインしたなら自ずと構成要素は導かれますが、もし自身に経験や知見が不足していると感じるなら臆する事無く優れた経験者やメンターにコンタクトしアドバイスをもらいましょう。その上でひとつひとつの要素を具現化あるいは実装するために「いつ・何が・誰が」必要なのかをリストアップします。「何が・誰が」については特定の何かや誰かを手持ちのカードや駒に囚われる必要はありません。最善を実現するために必要なふさわしい先にオファーすれば良いだけです(※手持ちのカード・駒だけで最善が達成されるのでしたらそれに越した事もありませんが)。デザインが秀逸であればオファーは受け入れられます。オファーを受けた側にも有形無形の魅力的なリターンがもたらされるからです。

4. 必要と成る要素を調達し運用する

ヒト・モノ・カネ・情報・技術・ツール、環境等すべてが必要十分に揃うことはほとんど考えられませんが出航のための最低限の調達をクリアしなければなりません。社会的意義のあるプロジェクトほど調達のためのプレゼンテーションは届きやすいはずです。豪腕や人脈も「ここぞ」という場面では有効かもしれませんが無闇に借りばかりを増やすのも避けたいところ。プロジェクトのコンセプトや設計の意義、精密さの中に調達力が予め組み込まれていることが理想的です。調達後、何かが不足していたり、想定と異なっていたり、ポートフォリオが隔たっていたりは、ごく普通に起こり得ます。スタートしてから見落としに気づくことも想定内です。どの要素やツールにテコを効かせ、それぞれの要素を組み合わせたり掛け合わせたりすることで(見えない)運用益を生み出せるのか吟味しながら、不足を補い余力を集め、更なる高みを捉まえるために備えます。プロジェクトにテコの原理と運用の視点を導入することでエネルギー効率が高まり、足腰が強化され、総合力は飛躍的に向上します。

5. 経過状態の全体を俯瞰、細部にフォーカスを繰り返し、評価する

俯瞰することで、プロジェクト過程において基本方針や最善の設計からブレがないか、また、全体に寄与するための細部の品質は担保されているか、チームの状態や予算状況を正確に把握し診断・評価します。経過状態の全体俯瞰、細部へのフォーカスを繰り返しながらディレクションを行います。その上で改善や見直しを図らなければならない箇所が発見されれば補強や調整を実施、即座に対処します。クライアントワークなら担当者や決裁者の現状認識や印象をインタヴューし、懸念や不安視している要素があれば、現状と対応策、具体的措置を説明し懸念を払拭します。その後、適切な対応を実施し、その旨を報告します。クリエイティブディレクションはクライアントや関係者、チームメンバーを不安にさせない配慮や方法論が欠かせません。クリエイティブディレクターがディレクションを見失なったり自信を喪失したなら(元も子もありませんが)、プロジェクトは空中分解し残酷な結末を迎えてしまいます。

6. 更なる高みにチャレンジする(最善から最高へのジャンプ)

ある程度プロジェクトの進捗にゴールが見え始めると、リラックスしたムードが漂い始めることもあります。決して悪い事ではありませんが「置きに行く姿勢」が人の記憶に残ったり感動を呼ぶ事もありません(「置く」ことが目的なら話は別)。仮に及第点に達していたとしても、そこからのもう一手間二手間の検討や行動が加わるか否かでは到達する姿の美しさにも違いが見える事でしょう。翻ってみれば社会や世の中に相応のインパクトをもたらしたものは、やはりこの段階で「もう一度狂気を注入できたもの」ではないでしょうか。ディレクターの強い意志で押し込んだり巻き込んだりすることも必要かもしれません。その時問われるのは、プロジェクトがここに至るまでのディレクターの態度や振る舞い、力量、覚悟、潔さ、あるいは愛情に基づく信頼関係です。運用の妙に依り創出、ストックされた余力は、まさにここで発揮すべきです。最高から最善へとチューニングしたものを、もう一度最高へと引き上げられる可能成に掛けて、チャレンジする価値はあります。思わぬセレンディピティが更なる高みに導いてくれるかもしれません。

7. 物事の最善へと到達さしめる

クリエイティブディレクションを「対象となる物事の最善を実現するための全ての行動」と定義したとき、クリエイティブディレクターは然るべき行動によってこれを実現させなければなりません。この位置の「ビジョン」から逆引き・逆算しプロジェクトの設計や運用が実施できれば成功確率は高まるでしょう。では単なる思いつきとは一線を画す「ビジョン」はどう描く(捉まえる)のか、本稿0.と1.のフェーズで得た膨大な事実とアイデアを複数の視点や論法でクロス処理し、脳内プールでの未知間培養も経て、最も理にかなった結論に帰す、というメカニズムになろうかと思います。その為にも日常の経験の中から観察や洞察、思考実験による知的総合格闘力を鍛え続けるしか道はないのかもしれません。

8. 最善の状態を運用する

期間限定や成果物を引き渡して完了というプロジェクトであったとしても、プロジェクトそのものは目的ではない以上、完了後の変化や好循環を求められています。これが本質です。リリースやロンチ、始動や開店がマックスで以降減価する一方とあってはプロジェクトは無意味どころか下手な掻き回しは害悪でさえあります。運用が軌道に乗ってこそプロジェクトは成功です。実際の運用フェーズとなれば不測も加わり、PDCAを回し続ける訳ですが、優れたコンセプトは優れたデザインを生み、優れたチームを生み、運用効率を高めます。当初設計において運用の負荷を下げ、効率や波及力を高める思想が組み込まれていれば、運用は求心力を発揮します。協力者や賛同者、見えない応援を自然に集めることができるなら取り巻く環境はより有機的に加速していきます。運用に直接携わらない場合、運用のマニュアルや規定を策定し運用チームに根付かせる必要があります。マニュアルや規定でカバーできない領域についてはフォローアップやサポートできる関係を一定期間維持しておき、現場からのフィードバックを精査し、運用を更新します。

9. 審美・文化・哲学へと昇華させ血肉化させる

クリエイティブディレクションのコンセプト開発や設計、運用手法は「たまたまそうなった」のではなく、根幹に(指揮者の)思想や哲学、審美性が存在するはずです。せっかく関係者間で経験が共有されたプロジェクトですから、達成感だけで終わらせるのは勿体ない話です。クリエイティブディレクターは手法や方法論、技術論だけに留まらせずに、さらに奥深い場所にあるものを「Gift」しましょう。もちろんプロジェクトのプロセスにおいてクリエイティブディレクター含め関係者は多くを学ぶはずです。これを改めて総括し、設計思想を司る根底に流れる思想や哲学、審美眼について、(必要なら再構成して)伝えてほしいと思います。そのエッセンスをチームや関係者間で共有することで少しずつ意識に沁み渡り、ひとつのデザイン文化が形成されます。そのことでチームはより洗練されて行きますし、そこで気づきを得たメンバーがいつかはバトンを受け取り、クリエイティブディレクターとして、より意義あるプロジェクトを開発し率いていくことに繋がります。ひとつのプロジェクトが高度に優秀な人材をも輩出することに貢献するなら、これは同時に価値ある社会事業です。

 

 

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