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2017-09-08

分業の功罪と新しい時代の分業

数年前の事ですが、ある製造業の営業責任者とディスカッションを重ね「事業の低迷を打開する新機軸の商品開発に乗り出そう」と合意しました。実現すれば画期的・構造的なプロダクトで、期間は約半年、プロトタイプを幾重にも洗練させれば商品としての成立が見込める構想が纏まっていました。次々と展開へのアイデアも加わり、プロジェクトは目に見えてブラッシュされていた矢先、当該営業責任者より計画中断の申し出が入ります。聞けば「製造責任者が新商品の試作に伴う設備や道具の配置、人員のシフト等に変化が生じることに難色を示している」とのこと。このプロジェクトは中断のまま立ち消え、現在この会社の経営は風前の灯火との声も聞かれます。「それ見たことか」などと内心意趣返しする気持ちなどさらさらありません。なぜなら「そう珍しいことではない」からです。もちろん当時は残念な気持ちではありました。今は遠くからエールを思うだけです。

経営が分業しセクションが分業し工程が分業し、それぞれに与えられた持ち場からの見え方や正義、闘争がありますから、誰も攻められない話です。特定の環境や状況に対し合理的に効率的に生産性を最大化するために最適化された結果の分業は、前提となる特定の環境や状況が続く限りにおいて極めて経済メリットが大きいでしょう。分業については学術的にもひとつの研究テーマともなっていますが、広義には特に産業革命をきっかけに工業分野を飛躍的に発展させ、また、富の創出と再分配機能として現代文明に極大な恩恵をもたらせたと近代史に刻まれています。一方で断片化された事業や業務は全体の視点を欠き、それぞれが市場原理の中で競争や覇権に向かった結果、あるいは越権ととられる摩擦を恐れた結果、環境破壊・汚染、災害、紛争、金融不安、搾取、犯罪、脆弱な社会システムや都市機能など多様な問題を引き起こし、進行形で多くのリスクを孕んだままです。

あまり大きな話は弊社というメディアの性質上馴染まないので、私たちの生活や仕事に焦点を合わせたいと思います。結論から言えば分業によって得られた経済的な豊かさと引き換えに、全体や総合への知性や想像を持たない、人生そのものが断片化されているような大人を社会へ大量に生み出したように見えます。もちろんこれからも分業や専門性は重要であり続けるはずですが、全体や総合への理解と相殺し合うような分業のあり方は大きく見直されるべきでしょう(教育・雇用・社会構造)。一度全体生態系に理解を持ってしまえば何ら疑問の対象ではなかった個別最適の業務や役割が実は馬鹿げたことだったことにも気づきますが、生活や家族を守るためには感傷を排し職場に居場所を確保しなければなりません。感受性のスイッチを切断するような生き方はストレスや鬱と無関係ではないでしょうし労働環境や人間関係にも大きく影響するはずです。また、幸福度の解釈や仕事を隷属状態とし余暇や趣味を過剰に評価するライフスタイルとも関連しているように思います。

弊社のようなデザイン会社でも予算規模の大きなプロジェクトにおいて分業は想定されます。特に専ら大手企業と取引するプロダクションなら大前提でしょう。プロデューサー、CD、AD、コピーライター、プランナー、カメラマン、ビデオグラファー、編集者、グラフィックデザイナー、CGクリエーター、イラストレーター、コーディネーター、webデザイナー、バックエンドエンジニア、翻訳者、広告代理店、PR会社、ナレーター、モデル、演者、エキストラ、スタイリスト、ロケ会社、スタジオエンジニア、印刷会社、それぞれのアシスタントetc.。地方においては予算規模はかなり限られますので、ずらり並んだ職種であっても一人で複数、極端にはほぼ全ての役割をこなすような離れ業も見られます。デザインプロジェクトでこれだけの職種がそれぞれの役割・工程に携わるとき、主体性の喪失(これも分業の弊害と言われますが)も危惧されますが、そこはディレクターやPMの手腕が問われるところです。また、フリーの立場で加わるとなれば職種が何であれ、プロジェクト全体・総合の視点や理解を持たない人物は代替・淘汰されて行きます。なぜなら精度やクオリティ、時機に直結するセンスだからです。

冒頭の話は陳腐なセクショナリズムで、これもまた事業の現象に過ぎず根本的な問題は別のところに存在します。当時の私は事業環境や経営全体の危機的な要請から製造の現場を説得するべきと進言しましたが、今振り返れば結局はそれも部分最適に過ぎなかったと考えています。これまでの分業は横の並びか上下の階層で、それはいずれも平面でした。日本のようにかなりの水準まで成熟した社会構造の中で旧態の分業のあり方を変えるのは至難です。しかしもはやこれは自然環境や社会の持続性、一番には人間性の回復にとって放置することができない問題です。分業によるブラックボックスで既得権を強化したり物事をコントロールすることは許されないですし、高度に専門的な技能や仕事のノウハウが継承されない、シェアされないことも社会の損失です。全体を理解した上で部分にあたる、クロスオーバーする全体と細部の両方を文脈で繋ぎながら往来を繰り返し、交互にフォーカスする。実は多くの人に備わっている能力(無人島に一人)を手っ取り早く解放できるのは、さしあたって企業経営者のパフォーマンス次第だと思います。いずれにしても人間を劣化させるようなマネジメントは転換せざるを得ない時代なのでしょう。

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