2017-05-26

ネットとデバイスと思考が溶けて気化してく

告白するほどのことでもないのですが、未だかつてスマホを持っていません。折り畳み携帯、すなわちガラケーを駆使して生きています。おぼろげな記憶としては、2006年頃からかトレンディな方々がこぞってスマホを振りかざす姿を冷ややかに眺めていた自分がいまして、天邪鬼な性分が「ふん、踊らされてる奴らめ」と呟いた手前(心の中で)、今更後に引けないという不毛な闘争を我が身に課しているという。それはさておき、スマホを避けてしまう理由としてぼんやり思うことがいくつかありまして。
_第一に皮脂でベタベタした指でインターフェースをこねくるのが受け入れられないのです。私には得体の知れない透明の絵の具を指の腹でペインティングしている様にしか見えません。エレベーターのボタンも無意識に中指の中央の関節で押してしまう私は潔癖症の部類に入ってしまうのでしょう。スマホの画面を消毒するアプリとか作れば良いのに。
_第二にネットワークとデバイスの非対称性と言いましょうか「無限の情報空間にアクセスする道具なのに、なぜこれほどまでに制約が多くひ弱なのか」と感じることです。「情報空間に相対してあまりに不釣り合いで瑣末なツールではないのか」という初期の違和感が今でも拭えない。ジョブズファンの皆様申し訳ございません。
_第三に利用するメリットよりも「Right Here Right Now」を奪われるリスクの方が大きいと感じるから。「使い方次第だろ」というツッコミも受けそうですが、未だかつて、このデバイス(やアプリ)に気を取られない人をほとんど見たことがありません。今、この場所(と、そこに居る心の動き)に意識を置かずにネットワークの向こう側に存在させてしまうのは、とても勿体ないことだと思っています(道具のTPOですが)。人間強くもなれるし弱くもなりますが、意志なく選択すればストレスのない方、下世話な方に流れやすい。要は物事を見詰めない方に向きやすいということです。
_第四、このデバイスは束の間のバトンに過ぎず、そう遠くないタイミングでなくなるものと思っているのでコミットするだけ無駄な気がするから。

ここからが本題。

ご存知の通り、AIやIoT(モノのインターネットだってさ)、VRやAR、関連する規格やデバイス、ロボットやアンドロイド、コンテンツ(超過激な!)やアプリ。これらの開発市場に世界中の資本が流れ込んで渦を巻き、轟音を上げています。一体何が始まるんでしょうか。人間の根本原理的にも倫理的にも法的にも色々問題の起こりそうなことが山積ですが、運用の法律やルール、規制はや常に現象の後追いですし(民主主義体制が前提です)、誰も見たことのない新世界の到来を前に「立ち尽くすしかないのかもな」という少々の虚脱感を覚えます。もはやネットかリアルかなどという言葉は意味を為さず、両者はとっくに溶け込んでいるので、全てがリアルです(あるいは全てがフィクション)。そうなると繋ぐためのインフラや媒介役のデバイスは別に今の形である必然性は一切ありませんから、より直感的に、より簡単で、より少ない工数で、より楽に、よりシームレスになって行きます。溶け込ませた時点で下ごしらえは済んでいますので後はショックやパニックが起きない様に、ロンチのタイミングを計るだけ、みたいな。

AmazonのAlexaに顕著ですが私たちが気づかない私たちの心身コンディションまで勝手にAIが食べてくれて解析してくれて手取り足取りソリューションしてくれる時代が足元です。“使い熟す”というコンセプトとは無縁。最初はこちらからの働きかけに見事に応じてくれたものが、どんどん学習して気が利いて、必要なものを取り寄せ、安全に移動でき、在庫や資産や支払いや手続きの管理をしてくれて、お節介になり、多彩なアドバイスをくれ、相談相手になってくれて、慰めて指導してくれる。ペットや友達や家族以上の存在になるかもしれませんね。幸か不幸か島国日本の日本語障壁はなかなか手強い様で、英語圏よりはこれらの普及(または侵食)には数年のタイムラグがあるようですが脳に直結させれば解決かも。私たちは自らの思考を保持するのか委ねるのかを選択しても良いし、選択しないということは自動的に委ねるということになるでしょう。そうした状態がこの作文のタイトル「ネットとデバイスと思考が溶けて気化」するというもので、どこにも定着せず空気中に希釈しているイメージ。それは美しく理想的な社会かもしれないしディストピアの入り口かもしれない。ただ人間は脆くて弱きに流れやすい(もちろん私も)ものです。

トランプ大統領の出現で、ジョージ・オーウェルの悍ましい全体主義世界を描いた小説「1984年」が売れたとか。「地獄への道は善意で敷き詰められている」という有名な格言もありますが、今あらためて危機感を持つべき先は、センセーショナルな個人ではなく人間の際限なき欲望とその帰結となるテクノロジーが生み出してしまう世界のような気がいたします。

 

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