ブランドデザイン : 株式会社折紙 / ORIGAMI INC. | 沖縄 – 東京

2017-05-19

会社名や商品名を考えるときのポイント

ネーミングが重要なのは言わずもがな、ですよね。
顧客や消費者、取引先とのコミュニケーションの中核となり、事業戦略や開発、販売戦略、価値基準や行動規範にも強い影響を与える指針そのものです。

「上手く運べている会社や商品の名前が結果的に良い名前だ」という考え方もありますが、例えば20〜30年前と現在とでは市場や事業環境、有効とされた経営手腕、時代感や価値観の変化など、あまりに土俵が違いすぎます。老舗メーカーの定番商品が今も変わらず売れ筋だったりするのは、もちろん普遍的な魅力もあるのでしょうが、物量と力技との(覇権が通用した時代の)販売活動が現在に至る大きな素地を築いたケースも多く、それによるポジションやイメージ資産は日本人のマインドのどこかに食い込んでいて「◎◎と言えば◎◎」という感じで文脈化に成功したものです。過去の土壌に過去に蒔いた種が今に結実し現象化していると考えてください。つまりそれは過去のもので、過去の投資で得たストックを今、食べているのです。ですから「上手く運べている会社や商品の名前が結果的に良い名前だ」というのは必ずしも当たりません(だからと言って悪い名前・悪手でもないはずですが)。スタートアップや商品開発のネーミングも現在のトレンドを踏襲する場合には、グループ化やカテゴリ化されるメリットとデメリットを比較検討してください。

スタートアップや新商品開発で名前を考える作業は悩ましくもワクワクする時間だと思います。特に会社名は美的センスやバランス感覚が表れるものですし、一度ですっきりと覚えてもらいたいはずです。事業に戦略的な道筋を示し、あらゆるコミュニケーションに展開され、繰り返し永く使用されるものですから会社の存在に良くも悪くも多大な影響を及ぼす最も重要な要素と言えます。以下にこれからネーミングを行う上で押さえてほしいポイントを並べてみます。

①名前に存在意義や存在理由、哲学、ビジョンが組み込まれていること

どちらかと言えばインナー向けで良くって、迷ったり分からなくなったりした時に原点に立ち戻らせてくれる輪郭が見えた方が望ましいでしょう。あまりに肩に力が入りすぎている感じも自信や冷静さに欠ける印象を与えます。創業者や事業コンテンツのパーソナリティーと、かけ離れても居心地が良くありませんが、一般論として、鷹揚としていた方が受け取る側は気楽です。例えば会社名に創業者の名前をそのまま配したような場合(承継会社に多いですが)、適切な時期にCIやVIを刷新したり、ブランドのステートメントやシンボルマークなど名前の“外だし”で思想・哲学を表すと良いと思います。

②機能的であること

資金やリソースが比較的潤沢なスピンオフでのスタートアップなど稀でしょう。機能的でなければ名前の認知・浸透にコストや時間や掛かり過ぎ、大きなリソースを持っていかれることに注意してください。「一体私にどんな価値をもたらしてくれるの?」という消費者や顧客からの(素朴で無言な)問いかけに答えを提示できた方がコミュニケーションはスムーズです。あなたが不在の場所でもあなたの会社の存在・機能・印象が上手に一人歩きしてくれるなら、時間を味方につけることができます。例外としてイメージや情緒や感性を売るビジネス、またはオフショアなどスケールの大きな展開を見込んでいる場合は機能的すぎると陳腐に感じられたりするので、このあたりのディレクションは信頼できるコミュニケーションの専門家に相談するのも一手です。また、サービス名称をそのまま社名にするケースなら、相応の“登場感”やプレスリリースなどを周到に準備できれば有効でしょう。

③美的感覚やデザイン性が感じられること

「私を分かって!」という名前と「私はあなたの助けになれるかもしれない」という名前、どちらのコンセプトが美しいかと言えば、明らかに後者です。こうした自覚や客観性の有無というのは美的感覚やデザイン性に直結します。社会の中での立ち居振る舞いが美しくないものは支持されにくいのです。不愉快な印象で瞬発力を狙うブランドもありますが、大多数が納得できる落とし所が用意されていない限り火遊びに過ぎません。例えば建設会社やリテールではない会社の場合、美的感覚やデザイン性は不要だとする向きもありますが、「私のセンスを見て!」ではなく「私は社会を美しくしたい、少なくとも醜さには加担しない」という意思表示は社会の公器として欠かせません。フレンドリーさの設定は異なりますが、分野や業種に限らず必要です。美的感覚やデザイン性というのは相手を慮ることのできる態度です。(慎ましいとか相手の顔色を伺うなどとは似て非なるのですが)

④競合や競合視されそうな潜在コンペティターの中で埋没しないこと

名前の前に「そもそもの事業力はどうなんだ」という話にもなるのですが、単純に名前だけを並べられた時に見劣りしない、より好感を持たれた方が良いに決まっています。消費者や顧客の持つあらゆる選択肢の中で、僅差でも選ばれる、あるいは保留となっても否定はされない(チャンスは残る)ことは担保しなければいけません。ただあまりに競合を意識しすぎると側からは隣接する遊技場同士の戦いのように見えてしまうので注意です。消費者や顧客に正しく向き合いつつ、競合者よりも“ふと”抜きん出ているような印象にチューニングできればベターです。情報過多の社会の中では、コツコツと当てて選ばれる確率を高めて行ける方を迷わず選択しましょう。圧倒的な存在感を演出することも可能ですが実体が伴わなければすぐにメッキが剥がれます。※あくまでネーミングに限った話です。コンテンツが核であることはもちろんですね。

⑤他者の商標を侵害しないこと

世界の常識当たり前、かと思いきや意外にも見落としが多いようです。勢いには余るが、リソースが貧弱でチェックが働きにくいスタートアップでは特に。晴れて命名した後、ロゴや名刺や封筒や看板やwebサイトやらといったツールを整備したところで、侵害を訴える他者からの訴状が届くといった笑えない話もあるのです。これでは将来も暗雲立ち込める雰囲気に覆われてしまいます。Googleはもちろん、特許情報プラットフォームなども活用してください。そして、画期的で構造的な名前を開発したなら、これを他者に侵害されないよう、商法登録や(TM)表記も検討しましょう。商標申請は自分でもできますが可否の可能性評価には慣れやコツもありますので、最初は商標に強い弁理士さんに依頼されることをお勧めします。

⑥サウンドとして整っていること

人間の耳は意味性の前にサウンドとして無意識に評価します。発音しにくい、聞き取りにくい、何だか気恥ずかしくなる、そんなサウンドは浸透効率が悪すぎます。日本語でも英語でも造語でも、母音と子音の関係、リズム、言葉数、濁音や半濁音、イントネーションなどを考慮した上で明快でコンパクトでサウンドとして気持ちの良い語感を探ってみてください。※逆張りもアリですが期間限定キャンペーンならまだしも、生涯背負わせる名前であることをお忘れなく。また、イケテル造語を開発した場合も、異なる言語圏や文化圏では赤面するようなとんでもない意味だったというケースも見られますので、このあたりも一考を。

⑦社会の景観を汚さないこと

会社を作ったり商品をリリースしたりサービスをロンチしたり、これらは社会の既存の空間に居場所を創り出そうとする行動です。情報空間であっても同様です。もちろん表現の自由は担保されていますが、事業がコミュニケーションの上に成立する以上、社会の景観や人間の心象風景を汚してはいけません。これを軽視して短期的な利益や販売成績を達成したとしても、長い目で見れば景観に配慮しないプレーヤーはゲームのテーブルから退席させられます。

⑧ドメインの取得が可能か

会社名のアルファベットをそのままドメイン取得できれば理想です。.com/.jp/.co.jp/.net/.地域名など。リテールでインターネットのコミュニケーションを軽視しては存続できません。認知し関心を持ってもらいwebサイトに訪れ、さらに好感を感じさせ、なんらかのコンバージョンを獲得、アフターも良好なコミュニケーションを維持する、そうしたサイクルを構築できれば事業は加速していくでしょう。ドメインは名刺や封筒や広告、パンフレット等、様々な場所に配置されるものですから、会社名と一体化した分かりやすい視覚表現であればあるほど接触の確率はより高まることになります。昨今では特にwebサービス事業など、取得できるドメイン名から会社名候補を導き出すケースもあり、これがうまくハマることも有りますからトライしてみてください。簡素な会社名とドメイン名がスマートに連動一致していると「マネジメントやチームワークが機能している会社かもな」と連想させる心理的な効果もあります。

その他、ユニークか凡庸か

事業の目的、ポジション、スケール感、事業分野、業種業態、商品・サービス・コンテンツ、経営資源や経営環境によって、それぞれに異なる判断が生じます。従来の常識を覆すような新規性の高い事業ならユニークである方がフィットするでしょうし、安定や品質、誠実さを感じさせたい事業であれば、あえて凡庸な名前を選択することで安心感が感じられます。情緒的な名前が向いている場合もありますし、異質なアプローチが驚きとともに有効な場合もあります。しかし必ずしもユニークでなければならない、ということはありません。事業が持続し発展する可能性を評価した上で最も確率の高まる絶妙な組み合わせを発見してください。

最後にコミュニケーションは受け手に決定権があります。私の思いが額面通りに相手に伝わることはありません。会社の存在理由、機能、美観など相手が齟齬無く受け取れるかどうかに常に注目してください。

補足:登記上のルールはもちろんクリアしてください。会社の系統(株式会社、合同会社等)は前後どちらかに配置しなければなりませんし、記号の扱いには取り決めがあります。また「事業に縁起の良い画数などはあるか?」という質問も受けましたが、姓名判断同様、一応、事業や会社に当てはめる考え方もあり、実際に大手企業でも、これを考慮したというケースもあります。気にして尾を引くくらいなら、どうぞ画数もお調べになってください。※ただしそうした画数判断の本や自称先生によっても内容が異なります。

 

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